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ブログ再開

実に長いこと留守にしてしまったこのブログ。
ようやく年の瀬にヒマができて(世間と逆)、再開する気持ちになった。
この約半年の間には、いろいろなことがあったが、もはやそれを逐一たどるつもりはない。
もっとも大きな出来事は、やはりメネスカルさんとレイラさんのツアーへの参加だ。
臼田道成は何をしているのか、と時折このブログをのぞいては落胆していた遠方の方々(いないかな?)には、とりあえず、サンパウロの雑誌「Pindorama」10月号の「新・一枚のブラジル音楽」に寄せた以下の文章をもって、この空白の期間の報告とさせていただこう。

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agarradinhos

Leila Pinheiro & Roberto Menescal “Agarradinhos”
      レイラ・ピニェイロ & ロベルト・メネスカル「アガハジーニョス」

この夏の七月、十日間に渡ってボサノヴァの名作曲家でギタリストのロベルト・メネスカルと、名歌手レイラ・ピニェイロの来日ツアーに、僕は演奏家、通訳として同行した。同行しただけでなく、このツアーのコーディネーターも兼任していたので、実際にはその数ヶ月前から実現に向けて働いていた。ツアーのタイトル「Bossa Nova from Rio / ボサノヴァの巨匠と歌姫を迎えて」も僕が考えたものであった。その数ヶ月間の僕は、まるで演奏家に似ていなかった。まさに「興行師」。どのようにして、このイベントを実現するか、どのようにして成功させるか、それだけを考えて生きていたような気がする。実際、自分の演奏の練習などをした覚えがまるでない。日に少なくとも一時間は演奏しないと気が済まないたちなのに。いやはや、実によく働いたものだ。そして、その甲斐はあったか。然り、あった。どのように? もちろん、催しの成功による喜びと安堵を得た。巨匠と歌姫に笑顔で帰国の途についていただくこともできた。それだけ? 否。

僕がこのツアーから得た最も大き報酬は、演奏家、いや音楽家としての進化、である。数ヶ月の間練習もしていなかったのに? そうなのだ。練習もしていなかったのに、ツアーを終えてみると、自分は音楽家として成長していたのだ。彼らの帰国後に久々に練習を再開してすぐに、その変化に気がついた。その進化の理由について、ひとことで説明を、と言われたら「優れた音楽家と行動を共にするだけで、その音楽家の良きエッセンスが、自然にこちらの心身に浸透してくるからだ」とでも答えてしまいがちだが、ここは、もう少し冷静に、わかりやすい説明を試みてみよう。


lilia/mene2


巨匠メネスカル氏の柔らかなエレクトリック・ギターの音色で始まる、このCD“Agarradinhos”は、2006年にリオのレイラ・ピニェイロの自宅で、彼女の歌とピアノ、そしてメネスカル氏のギターによるデュオの演奏をライブ録音したもの。あたかも仲の良い父と娘のような、師と教え子である二人が、休日に居間でくつろぎながら自由なセッションを楽しんでいるうちに、自然にできあがってしまったようなアルバムである。つまり、ひとことで言えば、親密な二人だけの音世界だ。大向こうを唸らせようなどという意図は、みじんも感じさせない。今になって、はっきり認識できたことだが、僕らがあのツアーで実現しようとしたことは、このCDの録音現場となったレイラの自宅の居間を、そしてそこで自然発生した「できごと」を、そのまま地球の反対側の、日本の四カ所のライブ会場に「再現」することだったのだ。
果たして「再現」は、なされた。ステージで演奏中に、しばしば交わされる二人の満面の笑顔によるアイ・コンタクトが、その親密さを物語っていた。と同時に、アイ・コンタクトなしで、寸分の狂いもなくシンクロする、息の合った二人の演奏もまた、親密さを証明するものだった。そういえば、このCDのタイトル“Agarradinhos”が意味するところは、親密さそのものではないか。

さて、前の段落で、実は僕は、彼らのアルバムおよび来日ツアーの演奏のエッセンスを成す、三種の美徳についてすでに語ってしまっている。一つは、自宅にいるときと同様に、身も心もリラックスさせて演奏を楽しむ「喜び」という美徳である。次に、一糸乱れぬ厳しいアンサンブルに見られる「真摯」の美徳。そして最後に、演奏者どうしを結ぶ、親密な「愛」の美徳。
この文章は、このCDの具体的な内容について語るものではない。僕が、練習もせずに、いかにして、あの十日間に音楽家として成長できたかを説明することを通して、このCDのいかに美しいかを伝えようとするものである。さて、答えはすでに明らかである。レイラとメネスカルが、演奏中はもちろん、移動中の車内でも、楽屋でも、惜しみなく発散してくれた「喜び」と「真摯」と「愛」の三つの美徳こそが、身近に接していた音楽家臼田道成に強力に作用したのだ。そうとしか考えられない。だって、まるで練習していなかったのだから。ならば、地球の反対側の二人に、こう叫ぼう、「オブリガード、メネスカル、レイラ!また日本へどうぞ!」。
すると「ミチナーリ、またコーディネート、頼むよ!」、そんな声が地球の反対側から聞こえてきそうだけれど、いやしかし、成功と失敗、つまり天国と地獄の間で大ばくちを打つ、あの「興行師」という名のお役目だけは、ううむ、御免!


withMenescal2
photo by Mitsuo Machida


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