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サンパウロでミキシング開始!

まる一年かかったニューアルバム「Trovador トロバドール(ポルトガル語で『吟遊詩人』の意)」の全録音と編集を終え、いよいよ仕事場は、スタジオ・アルゴ(僕の寝室)の外へ。リオからバスで6時間、ここサンパウロでミックス作業を始めて3日がたったところである。作業場は"Cachueraカシュエラ"という非営利文化団体のスタジオ。半年前にWanderleyのピアノ録音("Reza"と"Bonita"の2曲)もここで行ったのであった。その際、エンジニアの日系青年Kakaカカーの仕事ぶりが見事だったのと、スタジオのディレクターShen Ribeiroシェン・ヒベイロ氏(名フルート奏者で、日本で10年以上仕事をしていた人。尺八の名手でもある)のすすめもあって、当初は自分自身でやろうとしていたミックスを、このスタジオで行うことに決めたのであった。長い長い録音編集作業で、もう機械いじりにつかれてしまった、というのもある。もうたくさん!という限界まで働いたと思う。大の機械音痴の僕が、まあここまでよくやったものだ。ここから先はプロにお任せしよう、と気持ちよく決断できた。

先月31日から始めて、昨日まで3日間、全14曲中5曲のミックスを終えたところである。(註:ミックスって何だ、という方へ。通常、ポピュラー音楽の録音は、たとえ同時に録ったとしても歌や各楽器を、互いに混ざらないように別々に記録して、最後の最後に音響のバランスを整えて混ぜ合わせる。聴く人が自然に、目の前に演奏現場を想像できるように混ぜ合わせるのはたいへん難しいことである。)
そして今日は休日。考えてみれば、先月は録音編集の追い込みで、前回日誌を書いた日以降は一日も休んでいなかった気がする。ほんとに、疲労がたまっている。疲労していても、完成までは気が抜けないから、のんびり朝寝しようと思っても目が覚めてしまう。ここ数日は目の下にくまができている有り様。しかし、あと2週間だ。くまがあったって構うもんか。頑張ろう。

Kaka

スタジオのエンジニアKaka青年の仕事ぶりは、期待を裏切っていない。日系人ながら、日本語も話さず、日本食も食べないKakaだが、細部にこだわるきちんとした仕事ぶりは、やはり日本人の血のなせる技だろうか。実は、スタジオを選ぶにあたって、まず土地を選ぶことがだいじだと思っていた。リオのスタジオで3年前にデモCDを作った際、カリオカのいい加減(悪い意味で)な仕事ぶりにはほとほと嫌気がさして、音楽家はリオ、だが職人はサンパウロかな、と考えていたのだ。比較的きちんとした仕事をする人の多いサンパウロで、日本に長くいたことのあるディレクターのスタジオ、さらに日系人エンジニア、とくれば間違いはないだろうと踏んだわけだ。すでに書いたように、期待通りの仕事をしてくれている。

思えば一年がかりの、いや、構想と準備開始から数えれば二年がかりの、このアルバム制作の最後の2週間となるわけだが、ここまで僕が丹精込めて作り上げて来たものを活かすも殺すも、このミックスとマスタリング(これは各曲でなく、CD全体の音の仕上げ作業。この作業を経て、音はCD盤プレス工場へと送られる)の良し悪しにかかっていると言ってもいいのだ。まだまだ気は抜けない。これから先、難しいバランス調整を要する曲が続々登場してくる。厳しい耳と音楽観を持つKakaと、これまでの3日間同様、意見をぶつけ合いながら、妥協せず、より良い結果を目指してゆこう。いい方向に進んでいるのは間違いないのだ。

CD風ジャケット

ブラジル音楽を始めてもう20年以上になるというのに、今までブラジル音楽によるアルバムをおおやけに発表したことがなかったというのは、自分でも不思議なくらいだ。10年以上前に自作楽曲による「風」を発表してはいるが、今回のアルバムは、43歳にしてブラジル音楽の演奏家として、あらためて「再デビュー」盤、みたいなものになるのかも知れないな。文学でも音楽でも、処女作にはその人のそれまでの人生すべてが込められる、と言われたりする。そんなおおげさなことは毛頭考えていないが、前作「風」同様、自分の人生の記念碑的な作品になるだろうことは確かだと思う。またこのアルバムの純自家製的な成り立ちだけ考えても、僕の人生において、後にも先にもない、ユニークな作品だと思う。
買った人にどんな文句を言われても、アルバムの徹頭徹尾、その全責任は自分にあるのだから、気持ちは楽だろうな。晴れ晴れした気持ちで「これが僕の今のところの精一杯の仕事です」と言えるものになるよう、あと、2週間、頑張るのだ。
もちろん、買ってくれる人には文句を言われるよりは喜んでほしい。喜んでもらうためには、まず自分が喜ばないとね。これからもKakaが一曲一曲、完成させるたびに、僕が心から"Otimoオーチモ(最高)!!”、”Maravilhaマラヴィーリャ(素晴らしい)!!"と叫び続け、それにKakaが無言でニコッと応じてゆけば、間違いなくいいものになるはずだ。
「アルゴ号、速度を保ちつつ、注意を怠らず、前進!」と、今回は冗談でなく、まさに船長の気持ちで号令したいところである。


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