とうとう、アルバム最後の曲に到達した。アルバムタイトル曲「世界中を青い空が」。
僕はこの一曲に陽の目を見せてあげたいがためにこのアルバム制作を思い立ったといっても過言ではない。この曲を作ってから20年以上、様々な場所でこの曲を歌って来たが、実に多くのお客様から、賞賛をいただいてきた。やがて、これはなんとかして形にしてあげなければいけない、と思うに至ったのである。
この曲の成り立ちを少し話してみよう。あれは95年、あのオウム真理教によるサリン事件が起きて半年ほど経った頃だろうか。例によって、ない才能を振り絞りながらピアノの前で作曲を試みていた或る深夜、突如「世界中を黒い雲が、おおうその日が来ても〜♫」と詞と曲が一体となって口からほとばしるように出て来たのである、その刹那、両目からは涙がとめどもなく溢れ、曲は最後まで淀みなく流れるようにして、その晩のうちに完成したと記憶している。
待てよ。この曲のタイトルと、願いは世界中を「青い空」が、である。しかし実際には、ほとばしって出て来た言葉は「黒い雲」だったのだ。そう、作曲した僕の心には、あの忌まわしいサリン事件のイメージが確かにあったのだ。
サリンは多くの人を殺傷したが、あの頃はまだ、まさか現在の世界のように絶望的なまでに「世界を黒い雲が覆う」というほどの危機感はなかったと思う(少なくとも僕のような無知の人間にとっては)。が、この曲が、まことに残念なことながら、現在を予言していたと言えないこともない。
医者は、病人がいなければ、成り立たない仕事だ。病人がこの世からいなくなれば、廃業しかない。しかし、病める人、痛みに苦しむ人がこの世からいなくなることは、望ましいことなのだ。それと同じく、「世界中を青い空が包むその日」には、この歌を歌う必要はなくなるだろう。僕はそれでいいと思っている。たいへん美しい歌だが、僕は世界中を青い空が包むその日が来て、この歌に別れを告げる日が来ることを、心から望んでいる。
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piano, trombone,keyboards 池田雅明
acoustic / electric guitar 松尾和博
drums 石川智
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